某コロニーの住民が生命の危険に晒されている事実が判明、大至急彼らを収容しなければならなくなったエンタープライズは、通常は迂回する第二級危険宙域を、時間短縮の為あえて通過することに。最初は順調に思われたが、やがて現れた巨大な「宇宙の裂け目」に、抗うすべもなく飲み込まれてしまう・・。
最近はヴァルカンもの=スポックや彼の家族にスポットをあてた話を読んでましたが、これはまさにテレビ本編の時代ど真ん中な話で、カークが主人公でした。美人が乗艦してくると当然のごとく・・条件反射的にくどく(笑)カーク(彼にとっては呼吸に等しい、ナチュラルな行為か?)と、スコットのエンジンラブ!っぷりを示す文章が面白かったり。ヴァルカンものでは目立ってなかったり散々だったりの彼ですが、(前述通り)くどきありーのアクションありーの危機一髪ありーので、本作では本領を発揮してます。
スタトレ・・というか、TOSではおなじみ?の、絶対的な力をもった存在に振り回される系のお話で、テレビで食傷気味・・という向きもおられそうですが、それなり・・フツーに面白かったです。
「面白い」といえば、冒頭の、友人?が作者を紹介している文章も、ちょっと訳が分からない・・かなり悪ノリしてますが、面白いです。
「ヴァルカンの悪霊」→「スポックの世界」→「ヴァルカンの栄光」で、ヴァルカンシリーズ三部作だそうで。三つとも読み終わった今順位をつけるとしたら、「スポックの世界」が一番いいですね。
語られるヴァルカンの歴史は過酷で、カーク達が現在進行形で直面している事態も、ヴァルカンが連邦から脱退しようとしているという深刻なものですが、それはポリティカルな世界のもので、戦い方もディベートという、人智が生み出したもの・・。あとぶっちゃけ、終盤だったかで出てくるサレックとアマンダのなれそめの話がいいんですよ!(なので、途中でうんざりしても読み進めましょう)
それに比べると本作「ヴァルカンの悪霊」は、異星からヴァルカン星に帰還した探検隊の持ち帰った精神奇生体が蔓延・・人々を狂気と暴力の世界に引きずりこんでいくという血なまぐさいお話で、面白くないことはないんですが、結構人死にが出ますし、そんな深刻な事態のわりには、解決法はあっさりというか、肩透かし~・・でしたし。
「あっさり」といえば、終幕時のある人物同士の「別れ」も結構あっさり
でしたし・・(本編中の思わせぶり(?)な展開は何だったんだ・・)
「救世主(メシア)の反乱」でもそうでしたが、あまり人死にが多いと鼻白む・・というか。スタトレテレビ本編でも人が死なないことはないですけど、なんかこう、違うんですよね。いろいろと規制のあるテレビの、絵ヅラに気を使ってるであろう映像と、野放し(?)の小説の違い・・ってことなんでしょうかね。
でもまぁ、面白くないことはない・・今回の「おいしいで賞」はマッコイでしょうか(○○シーンもあるよ!) ヴァルカンシリーズなので仕方が無いんでしょうけど、カークの影がやはり薄いような・・。特に今回はクルーのいたずらで恥をかいたり、大事なトコ(銀河の暴れん「棒」?)に膝蹴りをくらったり(笑)で、結構散々です。
スポックがエンタープライズに配属されたところから始まる物語・・つまり船長はまだカークではなく、クリストファー・パイクであり、その他ナンバーワンやドクターボイスといったパイロット版の面子が登場する訳なんですが。
「タロス星の幻怪人」でしか窺えなかったパイロット版面子のエピソード・・特に、女性副長ナンバーワンの内面が描かれていて興味深い・・完璧な女性ではあるんですが、同時に結構「かわいい」ところもあるというか・・。
しかし、スタトレサーガのまだ序章部分とでもいうべき早期の時代のお話なので、一部登場人物がその後辿る未来をこちら(読者)側は知ってしまっている・・その後どうなったか分からない人物も、その、決まった未来をもつ人と深い関わりをもっていた以上、心を痛めただろうな・・と思うと・・。
スポックに関しても、上記と似たような事がいえるんですが、詳しくは後述のネタバレ感想で。
「終わり」を知った上で、彼(ら)の輝いた時代を読む切なさというか・・そういうののある小説です。アニメ版銀英伝のEDで、ユリアンが昔の、まだみんなが生きていた頃のスライドを独りで眺める、あの切なさに近しいものがあるというか。
ちなみにゆうと、この話ではスコッティがスポックと同時に配属されてる・・部署が完全に違うので、お互いが知己になるのはまだ当分先と思われる(第二副長としてすぐ有名になったであろうスポックに比べると、スコッティはまだ、一介の機関部員に過ぎない)・・なので「付き合い」とは呼べませんが、とにかくエンタープライズ歴(?)では同期なんですね。
以下、ネタバレ感想です。ご注意。
原題はSpock's World (そのまんまですね)
読み終えると、「スポックの」というよりは「ヴァルカンの」という方が適当な気もしますが(勿論、売り上げ的には「スポック」でないと駄目って分かりますけど) この前読んだTOS小説「救世主(メシア)の反乱」が娯楽に徹した作品だったのに比べて、本作は180度趣きの異なる、結構お堅い真面目な話。でも、面白くないことは無い・・深い味わいに満ちていて、なおかつ、ところどころ笑えて最後はほんわか・・というか。数回読み返してこそ、真に理解が出来そうな・・。
時間軸でいうと映画一作目の後位とのこと。ヴァルカンで宇宙連邦脱退の機運が高まり、ついに国民投票が行われることになります。その投票に先立って行われる討論の場にカーク、スポック、マッコイは証人として招かれ・・。
カーク達の物語・・いわば「現在」のお話と、星が出来た時から(←!!)綿々と続く「ヴァルカンの歴史」の話が、交互に展開していきます。その、ヴァルカンの歴史の話が結構凄惨というか、後味悪いんですが、「ヴァルカン人」(のメンタル)がいかに形成されていったかを辿る・・検証していくものなので、避けては通れない・・。
「ヴァルカンの」とは言ってますが、本作の訴えかけてくるテーマは今の現実の地球の世界の、誰にでもあてはまるであろう普遍的なもの・・上手いこと言えませんし、時間が経ったら言うことも変わるかもしれませんが、とりあえず現時点では、「他者(未知)を受け入れることを恐れるな」・・というか。こうして単体で書いても陳腐というか、「伝わらない」とは思いますが・・。
我ら日本人には馴染み薄く苦手であろう(そもそも、普通に生活してたらやんないですし)、ディベートが本作の重要な「舞台」。馴染みが薄いからこそ余計、「一体全体、どんなことゆぅてヴァルカン説得するつもりなんやろ?」と興味がもてるというか。諸外国の多くでは普通に義務教育中でやること・・日本でもこのスキルを身につけさせた方がいいんでしょうけど、教える方にその、テクが無いでしょうから難しいでしょうね。でも、「諸外国と互角に渡り合う為」とかいう目的以前に、普通の日常でももう少し、「言葉で」相手を説得させるために、自分の意見・考えを有効に表明できる術を、我々は身につけた方がよさそうな・・。
「和をもって尊しとなす」もいいですけど、言いたいことを言えない・・相手に伝えることが出来なくて、結果、暴力等の極端な手段に走ってしまう・・ってなケースが多過ぎる・・勿論、ディベートの技術を教えれば、すぐにでもそれら全てが単純に解決されるだなんて思ってませんけど、それにしても、「手段あったやろ?」「まず出るとこ出て、言うべきこと言えよ」と突っ込まざるを得ない案件が多々・・。自分ひとりで面倒を見なければ・・と思い込み、相談員や周囲の人に悩みを話さず、痴呆の親を絞め殺す息子、父親に暴力をふるわれて、そのことを学校にも警察にも話さず、結果家に放火して母親と弟妹を焼き殺す息子・・。他者に話していても結果は変わらなかったかもしれませんが、話してさえいえば変わっていたかもしれない「可能性」はある訳で・・。そんな「可能性」・・言葉の力も、伝えることの大切さも、頭の隅にすら浮かばなかったのか・・(日本の)教育の無力さを痛感・・。学校ではなく、家庭で教えることだ・・とも言われるかもしれませんが、その家庭(親)が正しく機能しているとは限らない、そんな中で子供を(いろんな意味で)救う為には、やはり公共機関である学校で、言葉のスキル・・そしてその根幹を成す、「自分の頭で考えて、自分で判断を下し、自分の言葉で話す」という能力の育成を、はかって頂きたいというか。
話がだいぶズレましたが・・。小説の感想に戻りますと、メイン3人ではマッコイが一番「おいしい」ような・・。彼のカークに対しての言葉遣いが、私が一番親しんでいるテレビ版吹き替え「ほとんどタメ口で、たまに敬語」とは真逆の、「ほとんど敬語でたまにタメ口」だったのにはちょっと違和感ありましたけど、とにかく彼の人柄が随所に表れていて微笑ましいです(逆にカークとスポックは影が薄いような・・) 3人の中で最初に証言するってのもいい・・読者側が、「3人はどんなことゆうのか?」と興味深い状態でのファーストインプレッションなので。
サレックとアマンダもいい感じ。「スポック」とはついてますけど、どっちかといえばこれはサレックの物語。
脇役ではやはり、ハマルキ人:ク・ス・トゥ・ルクが「おいしい」・・茶目っ気たっぷりで、ちょっと(いや、かなり)エキセントリックな「彼女」がどんなルックスかは、是非挿絵で確認して頂きたいというか。彼女が最初に登場した時に、身長1メートルくらいという説明があるんですが、これが後の登場時、重要なネタフリ(?)であったことに気付く・・この話で一番笑えるシーン。
それにしてもこの事件にも「首謀者」がいた訳ですが、動機が、「それって単なる逆恨みやん」という感じで、なんだかな~と。
原題はSpock,Messiah!
Mクラス惑星キーロスで、遠隔走査用頭蓋移植器のテストを行っていたエンタープライズ号。それは、原住民に移植器で遠隔連結(リンク)することで、彼らの経験・言語をクルーが自分のものと出来る画期的な発明であった。しかしテストに参加したスポックの行方が分からなくなり・・。
ドキドキハラハラ・・面白くて一気に読めましたが、読み終わって冷静に考えてみると、結構取り返しのつかないひどいことが起こるわりには、その責任を負うべき、事件の端緒を開いた人物に何もお咎めが無いってのがひっかかります。艦隊クビ→禁固刑くらいになってもおかしくないような・・(もう少し深刻に、良心の呵責で苦しんで頂きたいというか)
タイトル(原題)こそ「スポック」ですけど、レギュラーキャラではチェコフが一番「おいしい」ような・・。
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